ウーマンズ・ビート ドラマスペシャル

溺れる人

原作:藤崎麻里 
溺れる人―第3回読売・日本テレビ「ウーマンズ・ビート大賞」カネボウスペシャル21受賞作品

P:前田伸一郎・荻野哲弘


脚本:井上由美子
演出:雨宮望

以前から興味のあったドラマなんですが、期待を裏切らない出来でした。
実は私、家族(別居ですが)の中にアルコール依存症な人がいて、今回のドラマは各シーンが「いつか、どこかで見た事がある光景」でした。
そういう環境にいる私はドラマとして単純に観る事ができず、どちらかといえばドキュメンタリーでも見ているような感覚に近かったです。

麻里(篠原涼子)はバスの運転手・誠治(西島秀俊)と結婚。
しかし、その結婚式から麻里の依存症っぽいところは出てたわね。
シャンパンタワーで注がれるシャンパンを見て生唾を飲み込むところとか、新郎新婦の紹介がされている間に次々とワインやシャンパンをあおって、ついには倒れてしまうところとか・・・。
結婚生活が始まっても、毎日酒を呑んでは正体をなくす麻里に、いつしか誠治も「これは普通ではない」と感じるようになって・・・。
「一体何が不満なんだ?住むところにも金にも困ってないのに・・・。」という誠ちゃんの台詞、お酒を捨てる気持ち、捨てられた酒にすがるあまりにも情けない家族の姿に落胆するところ・・・すべて「わかるなぁ」って感じだった。
私は完璧に誠ちゃんの目線なんだな。

だから「呑んでしまう」方の麻里の気持ちって、実は冷静に考えてあげられなかった部分があったんだな・・・と、あらためて気付いたりもした。
正体をなくすまで呑んで、今度はそんな自分がイヤになってまた呑んで・・。
こういう悪循環の中で溺れていく人。
酒が悪いのか、意志の弱さが悪いのか、本人も家族も何をどうすればいいのかわからない中でもがく毎日。

妊娠してアルコールへの欲求がなくなり、これで依存症が断ち切れれば・・・と思っていたのに、今度は育児のストレスもあってか、麻里はまた酒を欲する自分と戦わなくてはならなくなる。
自販機でカップ酒を買ったのがきっかけになり、誠治に隠れての飲酒、自分にしかわからない場所に酒を隠し、ついには万引きまで・・・。
あぁ、このあたりもすごくリアルだった。
人目を忍んで酒を呑み、家族が隠せばその隠し場所を必死で探して酒を呑み、捨ててしまえば料理酒だろうが呑んでしまう。
私も実際に見た光景。
酒を探し回る「溺れる人」の哀れな光景。
家族に愛想をつかされる「溺れる人」。
「早く死にたいんじゃないだろうか?」
「どうせなら好きなだけ呑ませて、死なせてあげた方が・・・。」
「いいや、鬼になっても断酒させよう」
家族は家族なりに悩み、泣き、本人を説得し、聞き入れられないことに腹を立て・・・。
そんな自分が実際に見た光景と、ドラマの中の麻里の家族の光景がオーバーラップするのが、また辛かったです。

誠治の勧めもあって、家族のために病気を克服しようと病院へ行く決意をした麻里。
最初に吉村医師(室井滋)から「この病気に完治はありません」と言われてしまうのが、何ともせつなかったですね〜。
完治することのない病気と一生戦っていかなくてはならないというのは、相当の覚悟が必要だもん。
病気を治すにはお酒を呑まないことしかない。
お酒を呑まずに済むように病院へ来たのに、手っ取り早い方法さえない。
それどころか、油断して一口呑んでしまえば一気に逆戻り(これをスリップと呼ぶらしい)、以前よりすさまじい呑み方をしてしまう危険性。
禁断症状の恐怖。
それでも麻里は頑張ろうとしてたのに、ある晩、娘の夕夏が熱を出しイオン飲料を買いに出たところで、麻里に悪魔が微笑んだ。
酒の自販機の誘惑。
病気の娘のために買い物に出たはずなのに、どうしても誘惑を振り払えない。
「どうして?」と思ってしまうけど、これが「依存症」の怖いところなんだろうなぁ。
そして恐れていたスリップ。
帰りの遅い麻里を探しに来た誠治が、「ずっと病気が悪いんだと思ってた。お前が悪いんじゃないって・・・。でも・・・もう・・・。」と夕夏を抱いたまま去って行く背中を、見ているしかない麻里。
自分をコントロールできない辛さ・・・。

自ら閉鎖病棟へ入る事を決意した麻里。
幻覚、幻聴と戦い、その中でわかったのは完璧を求める母親・文絵(栗原小巻)への想い。
母の望むような立派な娘になれなくて、麻里はずっと苦しんでいた。
それがアルコール依存症に陥った原因のすべてではないだろうけど、いつも完璧を求められ続けてきた事で、別に要求されていなくても自ら完璧でなくてはならない体質を作っていたのかもしれないね。
だから、ちょっとしたミスも許せず、それを忘れるために深酒をすることの繰り返し。
閉鎖病棟の保護室の鉄格子を挟んで、内側から麻里が言った「お酒すらやめる事が出来ない、出来損ないなの。」という台詞は胸が痛かった。
「ショパンじゃなくて七つの子が弾きたかった」という何気ない言葉も、文絵にしてみたら引き裂かれるほどの想いだっただろうな。

閉鎖病棟を2週間で出て、アルコールセンターは3ヶ月で出所した麻里。
センターを出たからといって治ったわけじゃないし、外へ出ればそれだけ酒の誘惑と戦わなくてはならなくなる。
いつ、また「溺れる」かもしれないという恐怖と一生付き合っていかなくてはならない。
だけど、夕夏を抱いた誠治は迎えに来てくれた。
不安な中に、少しだけ希望が見えるような終わり方で、ドラマとしてはこれでよかったと思います。

麻里が酒に溺れているところは、よく描かれていたと思うし、依存症の患者と一番身近にいる誠治の立場の気持ちもリアルだなぁと思った。
何か結論が出たわけではないけど、訴えかけるものは確かにあったと思う。
篠原涼子の演技も良かったし、室井滋の医師役はハマりすぎってぐらいハマってた。
今回は女性のアルコール依存症患者という事で、自分で酒を買って隠すという光景が多かったね。
私が知っている依存症患者は年配の男性で、足腰も弱っているので自分では酒を買いに行けない。
だけど、その分、家の中のどこかに酒が隠してあるんじゃないかと、それはそれは必死に探し回る。
そういう光景も見ていると涙が止まらなくなるほど哀れなものだ。
何の感想にもなってないけど、ものすごくリアリティを感じたと書き記しておこう。

 

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